■ 患者の声を聞くだけで、患者行動が変わる
ある歯科医院での話です。その歯科医院では、口腔ケア商品があまり売れていませんでした。1ヶ月に5,000円というところでしょうか。この金額は、何もしていないに等しい金額です。
口腔ケア商品の売上高は、歯科医院と患者さんのコミュニケーションのバロメーターです。月に3~4万円の売上げがないと、コミュニケーション不足が懸念されます。たかが歯ブラシですが、されど歯ブラシです。
なんとか売上を上げようと考え、次の2つのことを実施することにしました。
1.歯ブラシの横に、なぜ、当院がこの歯ブラシを薦めるかを書いたPOPを置くことにしました。
2.卒後2年目の歯科衛生士さんに、次の4つの質問を患者さんにするように指示を出しました。
Q1.歯ブラシをいつもどこで買っていますか?
Q2.歯ブラシを買う基準は何ですか?
Q3.どのくらいの期間で、歯ブラシを買い替えていますか?
Q4.これまで、満足できる歯ブラシを使ったことがありますか?
30人くらいに質問した後、その歯科衛生士さんから報告がありました。
「坪島さん、患者さんって半年以上も同じ歯ブラシ使っている人、結構いるんです。ビックリしました。」
「買う基準って、結構、機能性だったりするんでよね。もっと、値段で買っているのかと思っていました。」
あまり、患者さんに質問することのなかったこの歯科衛生士さんは、自分が思いこんでいた患者さんの姿と、実際の患者さんの考え方の違いが、新鮮だったようです。
その後、続けてこんなことを言ってくれました。
「それと、歯ブラシ買う人が増えてきたんです。まとめて買う人なんかもいて、そんなことこれまでなかったのに・・・。質問しただけなんですが買っていかれるんです。なんか不思議ですよね。」
実は、私にとってこれは実験でした。唐突な質問を投げかけることで、患者さんの脳は、歯ブラシについて一生懸命考え始めます。そこに、さりげなく『当院お薦めの歯ブラシ』のPOP。多分、患者は買いたくなるはずだ、というのが私のストーリーでしたが、実験は見事に成功でした。
報告を聞いた私は、次の指示をこのスタッフに出します。
「歯ブラシに関して、患者さんの声はよくわかったね。たかが歯ブラシかも知れないけど、歯ブラシに対する患者さんの気持ちは、○○さんが一番よく知っていると思うよ。これからは、歯ブラシの話題で患者さんとのコミュニケーションを深くしてごらん。」
たった30人への質問でしたが、キチンと質問できたこのスタッフは、その後、歯ブラシの話題以外にも、患者さんへ自信を持って受け答えできるようでした。
歯科では“インフォームドコンセント”、“説明と同意”が当たり前のようになっています。しかし、“説明”の前に、患者さんのことがどれだけわかっているか疑問です。今回の事例でもおわかりのように、歯ブラシだけをとっても、患者さんの考え方は、聞いてみないとわからないと言うのが現実なのです。
“質問するだけで、歯ブラシが売れ始めた”これは、自費についても十分応用できるはずです。まず、患者さんがどんな思いをもっているのか、聞くところから始める、知ることで患者さんの言葉で患者さんと話ができる。そこが基本のように思います。
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>(*^_^*)b < 編集後記 ♪♪♪
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童謡詩人 金子みすずの詩「わたしと小鳥と鈴と」の最後に、
「みんなちがってみんないい。」
という有名なくだりがあります。私も、子供の小学校の参観日、道徳の時間に聞いたことがあります。今日お伺いしていた歯科医院の奥様から、このくだりが正しく教えられていないから、人の意見を聞かずに、主張ばかりしてくる若いスタッフが多いと聞きました。
最近は、赤ちゃんの時から、何でも個性で片付けてしまい、協調性が低い。例えば、医院の待合室で騒いでいても、「元気なのが個性」と正当化してしまう始末。騒ぐ子供いれば、静かに本を読む子供もいる、「みんなちがってみんないい?」(そんなわけないだろう・・・)
スマップの「世界に一つだけの花」にも似ているところがあります。
「ナンバーワンでなくていい もともと特別なオンリーワン」
どうもこの部分だけが、ひとり歩きしているような気がします。
“自分は、何をしなくても「もともと特別なオンリーワン」なんだ!”
オイオイ、なんか違うんじゃないの と突っ込みを入れたくなるのは私だけでしょうか。
坪島秀樹 拝