■ 「燃える集団」のつくりかた
スタッフをいかにやる気にさせるか、スタッフが自ら動く組織を作りたい…などは多くの経営者が悩み、試行錯誤するところではないでしょうか。能力給を採用することでやる気に火がつくのではないか、(無理をしてでも)院内旅行に連れて行くと、人が変わったように働いてくれるのではないか、弊社にも様々なご質問をいただきます。
元ソニーの上席常務の天外伺郎(てんげしろう)氏は、その著書『マネジメント革命-「燃える集団」を実現する「長老型」のススメ』(講談社)で、「燃える集団」をつくるにはどうすればよいか、かつてのソニーを事例に検証し提言しています。
集団が脇目もふらずに、夢中で仕事に取り組む、ついには運まで味方につける。
このような「燃える集団」という現象は、心理学の分野では「フロー理論」という名称でよく知られています。初期のソニーをはじめとする多くの企業が、少なくとも創業期には、燃える集団の様相を呈したと天外氏はいいます。
「フロー」というのは「流れ」という意味で、「無我夢中で何かに取り組んでいる時の精神状態」のことを指します。スポーツでは、この流れという言葉をよく使います。テニスでいえば、イージーショットをミスすれば、流れに見放されるし、敵のナイスショットを辛うじてでも打ち返すと流れがこっちに来る。これは、スポーツ界に限定される話ではありません。人間が営む活動の全てが、フローに関連しており、企業の経営にも応用できるのです。
では、どうしたらフロー状態に入れるのか?
そのための必要条件は、次の4点です。
①目標と能力が、ほどよく合っている
②状況を自分自身で完全にコントロールできる
③行為に対する明確で素早いフィードバックがある
④内発的動作に基づいて行動している
①は、挑戦意欲をかき立てられるレベルの目標を設定することの重要性を示しています。目標が低すぎると退屈で、高すぎると恐怖、不安、あきらめを呼ぶことになります。
②は、誰かの指示・命令によって行動するのではなく、自分が何をするかは自分自身で決断できることの重要性を示しています。組織がフローに入り、燃える集団を実現するためには、スタッフが全てを自分で決定できなくてはいけません。つまり、管理者は指示・命令を控えることがポイントなのです。
③は、継続的にフロー状態を保つには、自分がとったアクションの結果が、適確に素早くフィードバックされる必要性を示しています。失敗したときはもちろんのこと、自分の行動が目的にとって有効かを判断し、やり方をどんどん改善できることが重要なのです。
④は、換言すれば、「外発的動機」のみで行動するとフローには入れなくなるということです。心理学では、金銭等の「外発的動機」が、心の底からこみ上げてくる喜び、すなわち「内発的動機」を抑圧することが知られています。成果主義を導入した企業が軒並み破綻した1つの原因がここにあるといえます。
成果主義は、あからさまに外発的報酬を呈示する。すると従業員は、心の底からこみ上げてくる喜びや楽しみがわからなくなる。つまり、仕事がワクワクと興奮するものでなくなり、金や地位のためにやらねばならない義務と化すのだ、と天外氏はいいます。人間は、こうした外発的報酬による妨害がなくなった時、初めて内発的報酬により容易に反応できるようになるのです。
「燃える集団」をつくろうと導入した成果主義(能力給)が、「燃えない集団」をつくる一歩になりかねない、天外氏は、この本の中で、人間の本質や深層心理に関する視点がスッポリ抜け落ちている経営は、前提から間違っているといいます。システムで人間を動かそうとすると、失敗するということなのかも知れません。
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>(*^_^*)b < 編集後記 ♪♪♪
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先日、落語家の三遊亭園楽さんが、落語家を引退されました。「うまくしゃべれない」「もう恥はさらせない」というのが理由だそうです。関係者や落語ファンの方からは、早過ぎる引退を惜しむ声が多く寄せられたそうですが、その中に、うまくしゃべれないのは、入れ歯が合わないからだ、と治療を申し出た“入れ歯で有名な歯科医師”がいたと報道されていました。もし、園楽さんを引退に追い込んだ原
因が入れ歯で、本当に治すことができ、現役に復帰することができれば、とてもうれしい出来事のように思います。人の一生に関わる歯科医師の大きさを、あらためて感じた瞬間でした。 坪島秀樹 拝